阿古屋琴責の壇
○ 主な登場人物
阿古屋 遊女で平家の武将・悪七兵衛景清の愛人
秩父庄司重忠 誠実な詮議役の侍
岩永左衛門到連 公私混同する悪侍
○ あらすじ
壇ノ浦合戦に敗れ平家は滅亡した。源氏の天下となった中、平家の残党が地下に潜伏し、源氏に復讐するゲリラ活動を行なっている。源氏方は景清の愛人で京五条坂の遊女・阿古屋を捕らえ、その行方を厳しく詮議する。この詮議はまず、岩永左衛門到連(むねつら)の手で行なわれた。岩永は阿古屋に惚れていたものの、これまでまるで相手にされず、その仕返しをしようと拷問を用い厳しく阿古屋を責め立てた。しかし阿古屋はまったく口を割らなかった為、詮議の役は秩父庄司重忠へと移っていた。
堀川の問注所に場所を移し、再び詮議が行なわれる。取り調べのお白洲に引っ立てられてくる阿古屋。立兵庫(たてひょうご)の頭に、豪華な打掛という優美な遊女姿で、やつれた様子は見られない。岩永から引き継いだ秩父の詮議では厳しい責めは行なわれていなかった。その阿古屋の姿を見て激怒する岩永。「なぜ厳しい拷問をしなかったのだ!」と秩父をなじる。秩父は阿古屋の性格を見抜き、いくら厳しく責め立てても無駄であろう。真実を言わせるには誠意を尽くすしかしかないと、阿古屋をいたわりながら詮議を行なっていた。
しかしそれでも、景清の行方は知らぬという阿古屋に対し、秩父はここで阿古屋を拷問に掛けると告げる。その言葉に小躍りして喜ぶ岩永。ところが、そこに運ばれてきた責め道具とは琴・三味線・胡弓という三種類の楽器。もし景清の行方は知らないという話が真実なら、冷静に楽器を奏でることが出来るはず。音に乱れは出ないという秩父で、その三種の楽器を見事に演奏した阿古屋は、真実を認められ放免される。
○ ここを観て・・・聴いて・・・
琴責(ことぜめ)などとタイトルにあると、一瞬、ドキッとしてしまうが、これが三種の楽器を使う何とも優美な責め方。音の乱れ、その有無で阿古屋の本心を探ろうというのだから、三つの楽器は“ウソ発見器”といったところだろう。
○ 演奏会にあらず
歌舞伎では、三つの楽器を役者が演奏し見どころになっているが、文楽での演奏は床の三味線弾き、つまり楽器のプロが行なう。だから、うまいのは当たり前。琴、三味線、胡弓の順に演奏され、最後の胡弓では、まるで楽器が壊れるのでは・・・と心配するくらい激しく弾く。これは「私がこんなに嘘をついていないと言っているのに、どうして信じてくれないの!」という、阿古屋の興奮状態を表わしている。
琴責は単なる演奏会ではない。あくまでも厳しい取り調べで、阿古屋の真実の姿、そして、じっと耳を傾ける秩父にも目を向けて欲しい。
( 了 )