『寿式三番叟』(ことぶきしきさんばそう) 景事
「主な登場人物」
翁 神のごとき存在。
千歳 青年の感覚。
三番叟 二人いて真面目男とひょうきん者。
「あらすじ」
このタイトルは「寿」と「式三番叟」が合わさったもの。「寿式」ではない。
「寿」つまり、「おめでたい式三番叟」という意味。この「式」が大切で、儀式性があることを示す。能楽でも特別なものとされる『翁』を移したもので天下泰平・国土安穏の祈りが込めて舞われる。そうしたことから、特別な行事以外は、年のはじめの正月公演で上演されるのがほとんど。
翁の大切な文章を上げてみよう。「万代の池の亀は甲に三極を戴いたり…」。“三極”とは天地人のこと。万年も生きる亀は天地人の調和の元に成り立っている…。
「滝の水麗々と落ちて夜の月あざやかに浮かんだり…」。そうした調和のとれた世界の元で水に月が映る…。水面に月が映るということは、水に波風が立っていない穏やかな状態で、世の中も平穏無事ということ。
「渚の砂さくさくとして、あしたの日の色を弄す。天下泰平、国土安穏の今日のご祈祷なり…」。わたくしが願うことは国土安穏・天下泰平、これがすべてである…。
そしてこのあと、長久円満・息災延命の祈りも加わり翁の舞は終わる。こうした儀式性のある翁の舞が終わると、そのあとは開放感があり躍動的な三番叟のくだりとなる。翁が“神の領域”とすれば、三番叟は“人間”を現すのだろう。五穀豊穣・子孫繁栄などの願いを込めた三番叟の賑やかな舞の内、お披きとなる。
「ここを観て・・・聴いて・・・」
この作品は時間にして四十分。踊りの一幕、文楽ではこれを“景事~けいごと”または“景事物~けいじもの”というが、それらの中で四十分というのはかなり長い部類。
三番叟のくだりは楽しんで観ていられるものの、翁の舞いは根をつめて観ていると疲れてしまうかも。しかし「あらすじ」に上げたように大変ありがたい内容なので、その意味を知っていれば、きっと幸せに満ち溢れた感覚になるでしょう。
◎ これも景事
景事では他に『蝶の道行』『小鍛冶』『紅葉狩』『釣女』などが、よく上演されます。歌舞伎十八番の一つ『勧進帳』の文楽版もあり、これも景事の作品です。
( 了 )